しばしばファクタリングと比較して議論されるのが「債権譲渡」です。
債権を移転するという点では類似したこの二つの契約ですが、実際はその目的が大きく異なります。
この記事では、ファクタリングと債権譲渡の違いについて解説し、どちらを選べばよいかも合わせて紹介していきます。
ファクタリングの利用が初めてで用語や仕組みがわからない方は、まずは以下の記事からご覧ください。
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債権譲渡とは
そもそも債権譲渡とはいったい何なのでしょうか。
法律的な意味での債権譲渡と、一般的に使われる債権譲渡の違いを見ていきます。
(1)広義の債権譲渡は「債権の移転」を指す
法的な意味での、広義の債権譲渡は「債権の移転」を指します。
すなわち、契約の内容を変えずに、債権者だけを第三者に変更することです。
たとえば、A金融がB社に100万円貸し付けた金銭債権があると仮定しましょう。A金融がC社にこの債権を譲渡すると、債権者はC社になります。
B社がお金を借りたのはA金融ですが、債権の移転以降、B社はC社にお金を借りたのと同じように返済が必要です。
この例のように、内容はそのままに債権者が変わることは「債権の移転」と呼ばれます。広義の債権譲渡は債権の移転のことなので、ファクタリングも債権の移転の一部です。
なお、法律用語の「債権」は、あくまで契約に基づいて債務者に給付を求める権利のことなので、必ずしも金銭債権を指すわけではありません。「契約に基づいて〇〇させる権利」と覚えておくと分かりやすいかもしれません。
(2)一般的には「不良債権の譲渡」を指すことが多い
「広義の債権譲渡」に対し、ファクタリングと比較して議論される債権譲渡は、一般的には不良債権の譲渡を指します。
たとえば、銀行が社長にお金を貸したけれど、何か月も滞納されており焦げ付く可能性が高い。こういった不良債権を有償(または無償)で譲渡して、処分することを債権譲渡と呼びます。
不良債権の譲渡を受けて回収をおこなう業者が「債権回収会社(サービサー)」です。
債権回収会社というと、強硬な取り立てを行う悪徳企業のようなイメージがあるかもしれませんが、サービサーは法務大臣の許可を受けて合法的に活動している民間企業です。
ファクタリングと債権譲渡の違い
では、具体的にファクタリングと債権譲渡の違いを見ていきましょう。
それぞれにどのような特徴があるのか確認していきます。
(1)債権譲渡では「サービサー」が買い取り・回収をおこなう
債権譲渡で債権の買い取り・回収をおこなうのは「サービサー」と呼ばれる債権回収会社です。
ファクタリングの場合はファクタリング会社が債権を買い取りますので、誰が買い取りをおこなうかという点に違いがあります。
なお、サービサーとして活動するには、サービサー法に基づき法務大臣の許可が必要です。サービサーの業務をおこなえるのはサービサー以外では弁護士のみなので、この点もファクタリング会社との相違点といえます。
(2)債権譲渡では額面より安く買い取られることが多い
債権譲渡でサービサーに不良債権を売却したケースでは、債権の額面より安い金額での買い取りとなることが多いです。
そして、多くの場合ファクタリング会社の買い取り価格よりも低価格です。
たとえば、債権をファクタリング会社に売却すると、買い取り価格は安くとも60%~70%程度になります。ファクタリングの形態や買い取りを依頼する業者によって違いはありますが、おおむねこの程度です。
一方、債権譲渡では、債権の買い取り価格に相場は存在しません。というのも、いくらで買い取ってくれるかは以下のような要素を確認して総合的に判断されるからです。
- 債務者の収入がいくらあるのか
- 保証人の有無と支払い能力
- 担保の有無(あればその価値)
すなわち、債権の「回収見込み」で買い取り価格が決まります。そもそも債権譲渡の対象になるのは焦げ付いた不良債権です。
そのため、債務者の支払い能力がいま一つということも多く、同じ額面の債権でもファクタリング会社に売却できる場合と比べ、大幅に安い価格がつけられることがほとんどです。
(3)債権譲渡をおこなう目的は「不良債権の整理」
ファクタリングが「売掛債権の早期現金化」を目的とするのに対し、債権譲渡の目的は「不良債権の整理」です。
回収不能に陥った債権をいつまでも持っているわけにはいきませんが、そのままでは現金化はできない、このようなケースで債権譲渡がおこなわれます。
単に支払期限が来ていないから現金化できていない、というケースでは債権譲渡ではなくファクタリングを利用して現金化を目指すことになります。
それぞれの実施目的と、実施に至る背景が違う点に注意してください。
(4)サービサーへの債権譲渡では売掛金の回収はできない
ファクタリングは期日到来前の売掛債権の売却が目的ですが、サービサーへの債権譲渡では、金融業などを除く一般の企業が持つ売掛金債権の売却はできません。
なぜなら、サービサーが取り扱える債権は、サービサー法に規定されている「特定金銭債権」のみだからです。
- 金融機関の貸付で発生した不良債権
- クレジットカードの未払いの支払残額
- ファクタリング業者が買い取ったが回収できなかった売掛金
その他、特定金銭債権にはどのようなものが該当するかは、法務省HPの「債権管理回収業に関する特別措置法」の概要に記載されています。参考にしてください。
一般の企業の、商品やサービスを納入した売掛金は、基本的にサービサーに譲渡できないと覚えておきましょう。
参考:http://www.moj.go.jp/housei/servicer/kanbou_housei_chousa03.html
ファクタリングの債権譲渡登記とは?
債権は、法的に財産の一つとして取り扱うことができるため、土地などと同じく法務局に登記が可能です。
ファクタリング会社では、買い取る売掛債権の登記をおこないます。支払期日が来れば現金化できるのに、なぜそのような手間をかけるのでしょうか。
ファクタリングにおける債権譲渡登記について解説していきます。
(1)債権譲渡登記の効果
債権譲渡登記をおこなうと、「その債権が誰のものなのか」「どのような権利が設定されているのか」を明らかにできます。
売掛債権を巡って第三者とトラブルになった場合でも、事前に登記をしておけば「債権に対するファクタリング会社の権利の正当性」を主張できるのです。
法律用語では「対抗要件の具備」といいます。
(2)債権譲渡登記の目的
ファクタリング会社が債権譲渡登記をおこない、対抗要件を備えるのは、おもに二重譲渡の防止という意味合いが強いです。
たとえば、A社が保有する売掛債権をファクタリング会社であるB社に売却したと仮定します。この場合、既に売掛債権はB社のものです。
しかし、A社が譲渡の事実を黙ったまま、ファクタリング会社C社にも売掛債権を売却することがあります。これが二重譲渡です。
二重譲渡が行われると、売掛債権をA社から買い取ったB社とC社は、売掛債権を巡って争いに発展するケースがあります。
こんなときに、B社が譲渡を受けた際に売掛債権の権利を登記しておけば、トラブル防止に役立ちます。C社に対して権利を主張できますし、C社も買い取り前に登記を確認すれば移転済みの債権だと分かるからです。
利用者が資金繰りに苦しんでいることもあり、売掛債権の二重譲渡はファクタリング業界でたまに発生してしまいます。このような事態を防止するために譲渡登記がおこなわれるのです。
サービサー(債権回収会社)とファクタリング会社はどう使い分ける?
実際に債権の移転を考える際、サービサーとファクタリング会社はどのように使い分ければよいのでしょうか。
どちらを選べばよいのか、ポイントを解説していきます。
(1)売掛金の支払期日が来ていない場合はファクタリング会社に頼む
売掛金の支払期日がきておらず、期日前に現金にするのが目的であれば、買い取りはファクタリング会社に頼みましょう。
というのも、サービサーが取り扱うのは不良債権のみだからです。
逆に、ファクタリング会社はサービサーが取り扱う不良債権の回収はおこなっていません。期日が過ぎた債権の買い取りは断られますので注意してください。
また、債権の買い取り金額自体も、サービサーとファクタリング会社では大きな差があり、ファクタリング会社の方が債権の額面に近い金額で買い取ってくれます。
「売掛金を早く現金にしたい」「支払期日がまだ来ていない」という場合、まずはファクタリング会社に買い取り相談をおこなってみましょう。
(2)債権の種類によってはそもそも譲渡できない場合も
債権の種類によっては、そもそもサービサーには譲渡できない場合があります。
なぜなら、サービサーが取り扱うのは「金融機関の金銭債権」「クレジットカード会社の金銭債権」などの「特定金銭債権」のみだからです。
たとえば、商品を納入した分の売掛金などは特定金銭債権には当たらないため、サービサーに売却できません。
債権者の業種や債権の種類によっては、サービサーに買い取りを断られることもあると覚えておいてください。不良債権が発生してサービサーへの買い取り依頼を検討する際は、まずは自分の債権が特定金銭債権に該当するのかを確認してみてください。
まとめ
ファクタリングと債権譲渡は、その目的も対象の債権も大きく異なるため、債権を現金化したい場合は注意が必要です。
ファクタリング会社は、売掛債権の早期現金化を希望する方が利用する会社です。支払期日を超過した債権や、焦げ付いた不良債権は買い取ってもらえません。
一方、サービサーは特定金銭債権に特化した不良債権専門回収会社です。焦げ付いた債権も買い取ってくれますが、買い取り対象が大きく制限され、価格も安くなる点に注意してください。
それぞれできることに違いがあるため、相違点を理解した上で使い分けるようにしましょう。